【青梅の昔話】なぜこんなにキツネが登場するの?|先人たちが伝えたかった、7つのメッセージ

こんにちは!baigo.fun(バイゴーファン)です。
青梅に伝わる昔話を読んでいると、あることに気づきます。
この街の人たち、キツネに化かされすぎではないでしょうか。
青梅市教育委員会による『青梅のむかし話』では、全51話のうち第13話から第19話までの7話が、まるごとキツネの話です。うどんを食べさせられ、かんざしを隠され、兄弟そろって正気を失う。
読んでいると、怖いというより笑ってしまう話ばかりです。
……ただ、最後まで読むと、少し違う気持ちが残ります。今回はキツネにまつわる青梅の昔話をご紹介します🦊
ミミズのうどん|あの絶品うどんの正体

むかしむかし、山仕事を終えた男が、山道を歩いて帰っていると、目の前に美しい娘が現れます。
「お疲れでしょう。すぐそこが私の家なので、打ちたてのうどんでも食べていきませんか」
娘の可愛らしさと、大好物のうどん。二重に釣られた男は、娘のあとについていきます。
案内された家は妙にそまつだったそうですが、そんなことを気にする余裕はありません。
出されたうどんは、驚くほどうまい。男は腹いっぱい平らげました。
そして、家に帰り着いた途端。
急に気持ちが悪くなり、すべて吐き出してしまいます。うどんだと思って夢中ですすっていたものの正体は——すべてミミズでした。
ちなみにこのお話、作中では「キツネのしわざ」とはっきりと書かれているわけではありません。しかし、出典元の『青梅のむかし話』では、キツネの話が連続する第13話〜第19話のど真ん中(第15話)に収録されています。
編纂した青梅市教育委員会も、「これも間違いなくキツネに化かされた話だろう」と解釈してこの並びに入れたのではないか……そんな編纂の裏側を想像するのも面白いところです。
かんざし盗人|二ツ塚峠のいたずら

嫁入り行列が、二ツ塚峠を通りかかったときの話です。
花嫁は黒地に花模様の着物をまとい、髪には豪華な花かんざしやこうがい(髪飾り)を飾っていました。一行が峠をすらすらと越えたところで、付き添いの仲人が叫びます。
「かんざしがない!」
さっきまであった髪飾りが、すべて消え失せていたのです。
「この峠はキツネが出るから、いたずらに違いない」——一同は大急ぎで峠の頂まで引き返しました。
すると道端に盗まれたはずのかんざしとこうがいが、置かれていたそうです。
これはキツネのしわざなのでしょうか?(笑)
何かの拍子に花嫁の髪から落ちてしまった髪飾りを、誰かがわかりやすいように道端に置いておいてくれたのかもしれません。
青梅の人は身近な不思議なことをキツネのしわざと考えたのでしょうね。
ほうらくをかぶった兄弟|父の応急処置

今井に住む兄弟の話です。
「雨のふる夕方は魚がよく釣れる」と聞いた二人は、行ってはいけないと言われていた川へ釣りに出かけます。
聞いたとおり、魚は大漁。びく(釣った魚を入れるかご)をいっぱいにして帰る道すがら、兄が不思議な気配に振り返ると、弟がきょとんとしています。
「あんだよ、兄ちゃん。おら何も言ってないよ」
ところが今度は、弟のほうにも兄の呼び声が聞こえました。周囲には、だれもいません。二人は凍りつきます。
そして、お互いの顔を見合わせた瞬間。
「うわっ、兄ちゃんの顔にキツネがついてる!」
「お前こそキツネになってる!」
パニックになった兄弟は、道具を放り出して走り出しました。
心配して探しに来た父親が、これを見つけます。「悪いキツネに取り憑かれたな」と察した父は、大急ぎで家に戻り、ほうらく(粘土製の平たい土鍋)を持ってきました。
そして、走り回る兄弟の頭に、スポリとかぶせたのです。
すると二人は憑き物が落ちたようにペタリと座り込み、ようやく我に返ったそうです。
——なぜ、ほうらく。
父親に迷いがないのが素晴らしいところです。「こういうときはこうする」という知恵が、当時の家庭にはあったのでしょう。雨の夕暮れ、頭に土鍋をかぶせられて座り込む兄弟。絵にしたくなる場面です。
「行ってはいけない」と言われていた川へ行った、という発端も見逃せません。これは川の危険を伝える話でもあります。
おはちのふち|叩いてはいけない

昔は、ご飯を炊き上げると「おはち」という木桶に移し替えていました。
ある時、子どもがしゃもじについたご飯粒を落とそうとして、おはちの縁をトントンと叩いたところ、大人たちからひどく叱られます。
「これ、そんなことをするもんじゃない。おはちを叩くとキツネが寄ってきて、体にくっついてしまうぞ」
短い話ですが、生活の中の戒めとして語り継がれてきました。
「行儀が悪いから」ではなく「キツネが来るから」。子どもに効くのは、間違いなく後者です。 しゃもじの米粒を落とすという、どこの家でも起きる何気ない動作。そこにキツネを持ち出したところに、昔話の実用性が表れています。
キツネ火|「トミ」を売り歩く老人

昔、背中に小さな箱を背負って「トミ売り」をするおじいさんがやってきました。「トミ」とは、現代の宝くじに似ている「富籤(とみくじ)」のことでしょう。
「これを神棚に上げておくと、お金がうんと貯まるよ」
家々を売り歩くおじいさん。しかし、あるはた屋(機屋)のおかみさんは、不吉な胸騒ぎを覚えます。そこで、こう言って断りました。
「うちにはトミという女中がいるからいらないよ」
見事な機転ではた屋のおかみさんは、トミ売りのおじいさんを追い返しました。
その夜のこと。はた屋の裏の竹やぶにある「かぜの神さま」にお参りに来た人が、血相を変えて飛び込んできました。
「あそこにキツネ火が見える!」
外を見ると、向かいの山から右の家まで、提灯のような赤い火の列が、100メートルほども点々とつながっていました。そして、そのキツネ火とつながっていた家は、みるみるうちに景気が悪くなってしまったそうです。
そのキツネ火とつながった家こそ、謎のトミ売りのおじいさんからトミを買ってしまった家です。
さらに後日、キツネツキと言われた子どもが、「トミっちゅうのはキツネのことだよ」と言ったそうです。
「トミ」と聞いて、宝くじだと思って買ってみたら、なんとキツネだった。
怪しい人の、怪しい話にはのってはいけないという、先人の知恵が込められた昔話です。
興味深いのは、舞台がはた屋であること。青梅が織物の街として栄えていたことが、昔話の背景にも自然に織り込まれています。
河辺の嘉七|約束を破った男

河辺に住む嘉七は、鍛冶屋であり、キツネやムジナ捕りの名人でもありました。
彼の狩りの方法は、独特です。鉄砲は使いません。二つに折ったスルメに火薬を詰めた「スルメ爆弾」を仕掛け、食いついたキツネの口の中で爆発させる——という、かなり残酷なやり方でした。
ある寒い夜のこと。嘉七の前に、長岡山のキツネの一家が人の姿で現れます。
「このままだと一族が全滅してしまう。スルメ爆弾だけはやめてほしい」
涙ながらの懇願でした。哀れに思った嘉七は、二度とスルメ爆弾は使わないと約束します。
しかしキツネの毛皮は高く売れるので、時が経つと、また嘉七はキツネが捕りたくてたまらなくなります。そして嘉七は、こう考えました。
「スルメがダメなら、油揚げならいいだろう」
そう考え、彼は火薬を詰めた油揚げの罠をお膳に置いていました。
火薬入りとは知らず、夫がこっそり食べようとしているのだと思った嘉七の女房は油揚げ爆弾を一口でパクリ。
バーン!
大爆発が起き、女房はあごの骨を砕かれ、「かい、かい……」としか言えなくなってしまいました。
その後、村ではこんなはやし言葉が作られ、子どもたちに歌われるようになったといいます。
河辺の鍛冶屋の嘉七のかかは、火薬にかじられて、かい、かいと駆け回る
これはキツネが化かす話ではありません。人間が、約束を破る話です。
しかも「スルメがダメなら油揚げなら」という抜け道の探し方が、あまりに人間的で、笑うに笑えません。
横尾子川のオオサキ|イシばあさんの後悔

最後は、沢井の原という場所に住む、イシというおばあさんの話です。
イシばあさんは、炊事や洗濯に使う大切な水汲み場を、いつも綺麗に掃除していました。
ある秋の夕暮れ。水汲み場へ行くと、5〜6匹の「オオサキキツネ」の親子が、水遊びをしています。
大切な水場を汚されたくない一心で、おばあさんは叫びました。
「あっちへ行け!」
そして、思わず石を拾って投げつけます。
——しかし運悪く、その石が子ギツネに当たり、死なせてしまいました。
その夜。おばあさんが寝ようとすると、沢のほうから声が聞こえてきます。
「キュン、キューン」
悲しそうな鳴き声でした。
おばあさんはハッとします。母ギツネが、死んだ我が子を思って泣いているのだと。
翌朝。イシばあさんは死んだ子ギツネを木の根元に手厚く埋め、油揚げを供えて供養してあげたそうです。
キツネをそばに感じていた昔の青梅
ここまで7つの物語をご紹介してきましたが、少し不思議なことに気づきませんか?
実は、これらの話の中で「キツネが直接人をひどく困らせたり、人を害するために化かしたりした」という確証のある話は一つもありません。
「ほうらくをかぶった兄弟」や「キツネ火」のように、不可解な出来事や不吉なことの原因をキツネに求めているお話が多いのです。本当のところ、キツネが悪さをしたのかどうかは誰にもわかりません。また、「おはちのふち」のように、子供の行儀を正すための身近な口実としてキツネが使われることもありました。
一方で、「河辺の嘉七」や「横尾子川のオオサキ」に登場するキツネたちは、人間の身勝手さによって被害を受ける「弱いもの」の代表として描かれています。
昔の青梅の人々にとって、キツネはただ恐ろしい妖怪ではなく、日常のすぐそばにいるとても身近な存在でした。だからこそ、川の危険性を教えたり、怪しい儲け話への警戒を促したり、命を大切にする心を育んだりと、キツネという存在を通じて、生きていくための「戒め」や「教訓」を子どもたちに語り継いできたのでしょう。
青梅の昔話にキツネがこれほど多く登場するのは、この街の人々がキツネをそれだけ身近に感じ、共に暮らしていた証なのかもしれませんね。
話の舞台は、今も歩ける場所です
今回の7話には、実在の地名がいくつも登場します。
| 話 | 舞台 |
|---|---|
| かんざし盗人 | 二ツ塚峠 |
| 横尾子川のオオサキ | 沢井の原 |
| ほうらくをかぶった兄弟 | 今井 |
| 河辺の嘉七 | 河辺・長岡山 |
昔話を読んでから歩くと、いつもの景色が少し違って見えます。 二ツ塚峠を越えるとき、髪飾りを確かめたくなるかもしれません。
お読みいただきありがとうございました!
参考・出典
- 青梅市教育委員会『青梅のむかし話』1994年
- 青梅の妖怪と伝説と七つの不思議|青梅市公式サイト



