江戸っ子が愛した「青梅縞」「青梅棧留」|なぜ全国区のブランドになったのか

これまでの記事では、青梅の織物文化のルーツと、多摩川にまつわる万葉集の歌をご紹介しました。今回は、いよいよ「青梅縞(おうめじま)」が江戸の町でブレイクし、全国区のブランドへと駆け上がっていく、いちばん華やかな時代の物語です。
「粋」を重んじた江戸っ子と、渋い縞模様

18世紀後半、江戸の町人文化が成熟していく中で「江戸っ子」という意識が生まれ、彼らの美意識を表す言葉として「粋(いき)」という価値観が定着していきました。
面白いのは、江戸っ子たちが好んだ着物の柄が、決して華美で派手なものではなかったという点です。無地や小紋、縦縞といった、一見地味に見える柄や、茶色・鼠色・藍色といった渋い色使いが好まれました。
その背景には、幕府がたびたび出した絹織物や華美な衣装を禁じる奢侈禁止令の存在もあったといわれています。江戸っ子たちはこうした規制を逆手に取り、表向きは質素に見えながらも細部にこだわりを凝らす、という独自の美意識を育てていったのです。
まさにこの「渋くて粋な縞模様」という感性にぴったりとハマったのが、青梅で織られていた縞織物でした。
「青梅縞」の名が広まったのは、寛文年間から

青梅市郷土博物館の資料によると、「青梅縞」の名がこの地域の織物として広く知られるようになったのは、寛文元年(1661年)頃からとされています。ほぼ同時期に、素朴な木綿の縞織物「青梅棧留(おうめさんとめ)」の生産もはじまりました。
もともと青梅縞は、農家の女性たちが農閑期の副業として手掛けていた織物だったとされます。そのすっきりとした藍の色合いと確かな品質が、江戸の町で評判を呼ぶようになり、地方の一副業品から、次第に江戸中で知られる存在へと成長していきました。
「青梅産地」ブランドの確立と、唐桟双子の誕生

文化年間(1804〜1817年)には青梅縞を扱う買仲買が15名ほどであったのに対し、安政年間(1854〜1860年)には約40名にまで増加しており、取引の規模が着実に拡大していたことがうかがえます。
そして文久元年(1861年)、綿縞の「唐桟双子(とうざんふたこ)」が考案されたことをきっかけに、「青梅産地」としての名声はさらに高まっていきます。「青梅棧留」の名は日本各地に知れわたるようになり、青梅は押しも押されもせぬ織物の名産地としての地位を確立しました。
江戸っ子から地方へ、土産物として広まった青梅縞

青梅縞が全国区の人気を得た理由のひとつに、「お土産効果」があったといわれています。江戸の町で粋に青梅縞を着こなす江戸っ子たちの姿を見た、他の土地からやってきた人々が、これを土産物として自分の故郷に持ち帰った。それが口コミのように広がり、青梅縞の名は江戸だけでなく全国各地に伝わっていったというのです。
もっとも、これほどの人気商品になると、当然のように模倣品も出回るようになります。粗悪な偽ブランド品が市場に増えたことで、一時は青梅縞そのものの信用が揺らぐ事態にもなりました。人気商品ゆえの悩みは、いつの時代も変わらないのかもしれません。この危機に対しては、後の明治時代に入ってから、品質改良を目的とした組合づくりが進められていくことになります(このあたりの詳しい経緯は、また別の記事でご紹介します)。
まとめ|「渋い縞模様」が全国区になった理由
江戸っ子たちが重んじた「粋」という美意識。派手さよりも、渋さの中にこだわりを込める価値観。青梅縞・青梅棧留は、まさにこの時代の空気にぴったりと合致した織物でした。
農家の副業から始まった一枚の織物が、江戸の町人文化と結びつき、やがて「青梅産地」という全国区のブランドへと成長していく——。この物語は、地方の特産品がどのようにして「ブランド」になっていくのかを考える上でも、とても示唆に富んでいるように思います。
次回は、この青梅縞が明治以降、なぜ布団の生地「青梅夜具地」へと姿を変えていったのか、その大きな転換点に迫ります。
参考文献・出典
- 岡本拓也・小山政史編『青梅の織物~糸が紡ぐ今と昔~』青梅市郷土博物館、2019年
- 向貞江・森本みさ子・栗原広昭・金子静江編『青梅織物 青梅縞から青梅夜具地へ』青梅夜具地夕日色の会、2013年
- 江戸・東京デジタルミュージアム「江戸っ子は渋好み」(大江戸ファッション) https://www.library.metro.tokyo.lg.jp/portals/0/edo/tokyo_library/fashion/page2-1.html
- 和樂web「『江戸っ子』って誰のこと?定義や気質・江戸言葉を紹介!」 https://intojapanwaraku.com/rock/culture-rock/106731/
- きものナビ「江戸時代、全国区でヒットするも偽ブランド登場で衰退した『青梅縞』のこと」 https://kimono-navi.amebaownd.com/posts/6353320/

